◎ 自作小説 ~ 国民短命化計画

(作品No.016) 

国民福祉省の事務次官 岐冷野(キレノ)は、
大臣に呼び出され、こう言われた。
「岐冷野君、恒常的に支出が収入を大きく上回っているが、
 この状況は 一体いつになったら解消するんだね?」
岐冷野はムッとしながら 大臣にこう答えた。
「既に年金の開始時期を先送りし、先日『共通ナンバー』で
 徴収漏れを防いだばかりです。料率も毎年引き上げてますし、
 これ以上若い世代から搾り取ろうとするのはムリですよ。」
「年寄りに金を掛け過ぎていると言っているんだよ。
 支出の内訳を見れば判るだろう。」
「とは言っても、前大臣の時に
 介護保険の適用基準を厳しくしたばかりです。」

「しかし、大赤字であることに間違いは無いだろう。
 消費税は既に上げたし、国債の発行も もう限界だ・・。」
あまりにも、当たり前のことしか言わない大臣に
キレノは ついに キレてしまった。
「儲かってる大企業から法人税をガッツリとれば済む事でしょ?
 それとも、それができない 個人的な理由でもあるんですか?
 他にも 軍事費を減らせるぐらいに、隣国と仲良くするとか、
 あなたのような使えない国会議員の数を減らすとか、
 やるべき事は過去にいくらでもあったでしょうに!」

「おいおい。政治の事に口を出すなよ。
 それよりも、将来の納税者を減らさないように、
 少子化対策をさらに進めるべきじゃないのかね?」
「あなたには、国民の現状が見えてないんですか?
 雇用不安や 低賃金の上に、物価の上昇まで加わって
 この時代に 安心して子供を増やせる人は少ないんですよ!」
キレノは大きな鼻の穴を さらに膨らめ、大臣に喰いかかった。
「だいたいあなたは、この間まで環境大臣だった人でしょう。
 これ以上プロを怒らせないほうがいいですよ。
 もう2度と、国会の答弁書は作らないかもしれませんし、
 既にできている答弁書には、専門用語に わざと間違えた
 ふり仮名を振ってあげましょうか?」

「いやいやすまん。つい感情的になってしまった。許してくれ。
 しかし、君は口は悪いが 相当なキレ者だと聞いている。
 何とかしてくれる・・だろ?」
「解りました。必ず結果は残します。今までもそうでしたから」


歴代国民福祉大臣が言う通り、彼は頭のキレる男だった。
そして、何より負けず嫌いだ。
先程までは、まるで国民の声を代弁しているかのようだったが、
日頃は、「国民感情など取るに足らぬ」と毎日のように吹聴し、
影では 二枚舌どころか「二枚刃流キレノ」と 恐れられていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大臣との会話が終わり、
キレノは、かねてから腹の中にあった
「国民短命化計画」の実施を決意した。
勿論、表向きは「老後の人生充実化プラン」として発令する。

その、第1弾は「きちんと3食 摂るべし」だ。
大手コンビニチェーンに助成金を支給し、
一人暮らしの老人宅に弁当を配達させる事にした。
「大まかな健康確認も兼ねる。」との説明に皆 納得したが、
体に悪い食品添加物をたっぷり採らせるのが 本当の目的だ。

また、高齢者施設では、
「美味しいもので幸せに」というスローガンのもと、
大量の科学調味料が厨房に運ばれた。
「衛生管理の向上」をうたい、水道水のカルキ濃度を上げ、
強力な食器洗剤の使用を義務付けた。
すすぎが適当な施設では、有機洗剤が カルキ水とともに
老人の口に入るだろう。
居住者各個人にも、かなり強力な 薬用ハンドソープと、
強力な入れ歯洗浄剤が 大量に配られた。
過度に清潔な状況で、雑菌に対する免疫力を落とすのが目的だ。
「余暇の充実」では ロビーに 大出力のプラズマテレビを置き、
「ゆっくり温まろう」と 香料と着色料たっぷりの入浴剤を入れ、
「おしゃれに過ごそう」と 白髪染め剤を無料にした。

第2弾としては
「抗生物質耐性菌の増加防止」を叫び、
老人に抗生物質を投与することを極力控えることにした。
さらに、公立病院の医師を大幅に減らし、
待ちくたびれさせることによって体力を奪うばかりではなく、
数人しか乗らない不採算バス路線も廃止にしてしまったので
在宅老人の多くが、公立病院に行くのを控えるようになった。

さらに、弟3弾としては、
「畑遊びのできる夢の高齢者施設」として
ゴミ焼却所近くの環境ホルモン濃度が高い地域、
残留放射能の多い地域、騒音や排気ガスの多い地域などの
土地を安く買い集め、居住者一人ひとりの為の畑が付いた
快適な「新型高齢者施設」をいくつも建設した。
寒い冬に高血圧の老人が いきなり外に出るのは危険だ。
夏には熱中症の恐怖。
帽子を被り忘れれば 紫外線にやられ、
化学肥料や除草剤を手にし、消毒を吸い込む。

この策は、極めて有効だろうと判断したキレノは、
一人暮らしの老人に食事を届けるコンビニ店員にも、
「新型施設は楽しいよ」と勧誘することを義務づけた。
楽しい事自体は決してウソではない。
「行商さん」が、色んな物を持って毎日施設にやって来る。
冬には おでんに中華まん、夏には懐かしのラムネや みかん水。
レトロなゲームや 懐かしのCDから
話題の雑誌や ゴムで伸び縮みする衣類まで。
老人の心をピンポイントでつかんでいる。
実は、この「行商」もコンビニチェーンが運営しているのだ。
今、施設で特に人気が高いのは「かんたんスマホ」だが、
電磁波が体に悪いことは、ここでは禁句になっている。

後は、結果が出るのを待つばかりとなった。

-------------------

そして3年後、キレノの期待は大きく裏切られた。
新型高齢者施設の老人の寿命が 著しく延びていたのだ。

あわてて、現場へ確認に行ったキレノは目を疑った。
老人たちが、妙に生き生き・ハツラツとしていたのだ。

今日はあいにくの雨で 畑仕事は出来ないのだが、
多くの老人たちは
ロビーの大きなテレビの前に集まり、時代劇を見ながら
和気合い合いと、好きなツマミで酒を呑み、
碁を指したり、花札に夢中になったり、
のんびり読書をしたりと…、自由気ままに過ごしている。

喫茶コーナーでコーヒーを飲んでいる勘樹じいさんの隣に
由香里ばあさんが座った。

「おお、由香ちゃん、今日は また一段と綺麗だなー。」
「あーら、ありがとう♡ また毛染めを変えてみたのよ。」
もはや、この年で「恋愛」という感情は無いだろうが、
異性を意識する事が 若さを保つ秘訣である事には 間違いない。
「勘じいも この前まではトボトボ歩いてたのに、
 畑をやるようになってから、背筋がピーンと伸びたわねー。」
「おうよ。 畑が終わったあと、一杯呑んで、
 あのいい匂いの風呂に入るのがたまらんのよ。
 ここの医者どもは、いくら酒を飲んでも 止めんしなー。」
「ああ、あのお風呂! 私も大好きよ。
 足もとがポカポカして ぐっすり眠れるわ。」
強力入歯洗浄剤で口臭が無くなると 話も弾むようだ。
「そういやー、昨日こーんなに大っきい白菜が取れてよー。」
「ええーっ! あの寒い中を採りに行ったの?
 風邪引かなかった?」
「畑仕事は俺の生きがいよ。
 それに、外に出て、お天道様に当たって、風に吹かれると、
 なんだか力が みなぎってくるんだよ。」
「何カッコいいこと言ってんのよ!
 きっと、自律神経が強くなったのね・・。」
「まあ、難しい事は わからんけど、
 ここは飯が美味くて俺にはサイコーよ。
 前には、塩分がどうとか、コレステロールがどうとか
 言われて うるさかったけど、
 ここでは好きな物が たらふく食えるからな。」
「そうよねえ。 確かにここでは、ストレスとは無縁よね。
 わたしも顔つきが優しくなったって、
 子供たちが頻繁に合いに来てくれるようになったのよ。
 本当に幸せだわ。」
「いつもお土産に、配給のハンドソープやら、
 行商で買った物やら、持たせてるからじゃねーのか?」
「まあ、知ってたの?」
「あとで、あんたのとこに白菜 持ってってあげるから、
 それもお土産にしてあげな。」
「ありがとう・・。
 息子夫婦も、私に相当気を使ってくれていたみたいで、
 私がここに入ったら、すぐに子供を授かったわ。
 幸せになってくれて良かった・・・。」
「泣くなよ・・。
 俺なんか、この施設の評判を聞いて、望んで入居したんだぜ!
 昔は 親を施設に入れたら 親不孝呼ばわりされてたけどな。」
「わたし、ここを作ってくれた人に 本当に感謝しているわ。」
「ああ、全くだ。」

この光景を見て、キレノは がっくりと肩を落とした。
どんなに逆境でも、それをプラス思考で生きる力に変えて
楽しんでいる 老人のパワーが忌々しかった。
キレノにとって、圧倒的に足りないのは
老人達が最後に言った「感謝」の気持ちであろうが、
きっと、この先も それに気付く事は無いのだろう。
そもそも、入省するまでエリート街道の真ん中を突き進み、
畑に出るどころか、老人と会話したことすら無いキレノに
この施設で起こった事を理解するのは不可能だった。

しかし、キレノの功績は 本人が知るよりも遙かに大きかった。
在宅の老人も、コンビニ店員が食事を持って来るのを待って、
毎日を楽しく生きれるようになっていた。
さらに、通院を控えた事で、より健康に気を使うようになり、
強い薬の持つ副作用からも開放され、免疫力もUPした。
もちろん、調子の悪い時には、コンビニ店員からの連絡で、
懇意にしている町医者が、すぐに往診に来てくれる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日、キレノは大臣表彰を受けることになった。
国民福祉大臣は既にまた別の人物に変わっていたが、
今回の表彰は 総理大臣直々からだった。
表彰の理由は、医療費を削減し、耐性菌の発生を抑制し、
老人に生きがいと長寿命をもたらし、
介護施設を増やすことにより、介護職員等の需要を増やし、
彼らの賃金を上昇させ、景気回復に貢献した・・等々だった。

腹の中で思っていた事が1つも実現されなかったので、
キレノにとって、その表彰はちっとも嬉しくなかったが、
その後、コンビニチェーンの組織票やら、
電話会社、食品業者、タクシー業界などからの援助で
念願の国会議員に当選することができた。

しかし、その幸せは、あっという間に終わってしまった。
キレノは国会初登庁の朝、車に轢かれて急死したのだ。
轢いたのは、バス路線が廃止になり、公立病院に行く為に
慣れない車を運転しようとした高齢者だった。

偶然なのか? それとも、
多くの老人の死を願ったキレノに バチが当たったのか?
本当のことはわからない。

報道でしか彼を知らない人たちは 口々に
「いい人を亡くした」・・とつぶやいた。
しかし、彼の本音を知っている私は 敢えて言っておこう。
「人を呪わば穴二つ」・・と。


小説No16 (345x183)

縦書きで ご覧になりたい方は → こちら
(小説投稿サイト「ノベラボ」へ ジャンプします。)


関連記事
スポンサーサイト
-------------------
お読み頂き、ありがとうございます。
「にほんブログ村ランキング」に参加しています。
ポチッと 押して頂けると、うれしいです。
  ↓ 

  
     ↑
  こちらは、
  ついでで 結構です。

コメント

コメントを書く

(設定しておくと後でPC版から編集できます)
非公開コメント