◎ 自作掌編小説「人間ドック革命 ~部下の場合~」

(作品No.018-A)

ドックと言えば犬?
いえいえ、それはドッグ (dog)

「ドック (doc)」とは、水から上げた船の検査場のこと。
1番ドック、2番ドック・・とかいう、アレだ。

船はドックに入ると、いくつもの部品に分解され、
徹底的な検査を受ける。

破損などが見つかった箇所は 修理され、
修理が不可能な場合は 部品ごと「交換」されて、
最後に、元通りに組み立てられる。

「人間ドック」とは、検査項目の多い「健康診断」の事。
船舶の「(ドライ) ドック」とは 全く違う。

しかし、20XX年、医療は飛躍的な進歩を遂げ、
2つのドックの違いは ほとんど無くなっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「課長、わたくし人間ドックに入りますので、
2週間の『法定ドック休暇』を取らせて頂きます。」
「おお、そうか! あれは いいぞぉ~っ。
まるで、『生まれ変わったような』気持ちになれる。
悪い所は その場で交換してもらう事が出来るから、
1回受ければ、当分は 最高のコンディションで働けるぞ。」

「眠らされて、冷凍された後に、バラバラにされる
と 聞いたんですが、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「そうか、初めてだったな? 俺は2回も受けたがな・・。
ところで、君は『魚の活け造り』を食べた事はあるか?」
「はい、1回だけ 食べたことがありますが・・?」
「体が刺身になっても、尻尾はピンピン動いていただろ?」
「なるほど。 解体しても 確かに各部分は 生きていましたね。
でも、その前の冷凍で・・死んでしまわないかと不安です。」

「う~ん。 例えば・・だな、
液体窒素で瞬間冷凍された金魚は、もちろん 心臓も停止する。
しかし、それを すぐに 水の中に放り込むと・・?」
「また元気に泳ぎ出す・・という実験は 見たことがあります。」
「そうだろ、今や宇宙旅行で『コールドスリープ』は普通だ。

「なるほど・・。 少しだけ 気が楽になってきました。
切り口には 傷さえ残らないと言うのも、本当なんでしょうか?」
「臓器の交換などがあれば 残るが、それ以外は大丈夫だ。」
「すごい縫合技術なんですね?」
「いや、縫合はしない。正確に合わせれば 自然にくっつく。」
「ええ~っ!! そういうものなんですか・・?」

「ああ。・・例えば、アルミの塊を切断したとする。
鏡よりも完璧な平面になるまで 徹底的に切り口を研磨すれば、
その面を密着させるだけで、ピタリとくっつく。」
「えっ! 磁石でもないのに、接着剤も使わずにですか・・?」
「分子(原子)間力だ。車で引っ張っても取れないぞ。
金属の塊は、小さな金属原子が強く引き合って出来た物だろ?
切断面を限りなく鏡面にすれば、2面の原子は限りなく近づき、
元々の分子間力が復活する。
逆に、熱して 分子間力を弱くすれば、溶けるがな・・。
切れ目なんて、もともと 有って無いようなものだ。」
課長は更に力説した。
「要は、いかに正確に 切断面を合わせるかだ。
だから、体を瞬間冷凍したら、超音波メスで一気に切る。
レーザーメスでは 表面が熱変形してしまうからダメだ。
絶対零度まで下げるから、表面の面相は完全に固定され、
雑菌すらも入れない。
もともと、真空の 完全無菌室で行うんだけどな。」

「そこまで聞いて、やっと安心しましたよ。
実はわたくし、腎臓に結石を持っているんです。
内視鏡を入れて、結石を除去するという話になったんですが、
何しろ、臆病なものですから・・。」
「ああ、どうせなら、人間ドックで寝ている間に、
石を取ってもらおうって事だな。 一石二鳥だ。
腎臓自体に問題があったら、その場で交換できるしな。」
「はい。そのとおりです。」
「それじゃあ、頑張ってきてくれよ。 君の輝く未来の為に。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2週間後、この男は帰らぬ人になった。
課長は言わなかったが、この人間ドックには失敗も多いらしい。
冷凍の魚を水に戻しても、100%が泳ぎ出す訳ではないのだ。

医療技術は確立されたが、命についての研究は進んでいない。
それ処か、このドックの 失敗データが 集まれば集まる程、
科学で解明不能な「神の領域」の存在が明らかになって来る。
宇宙飛行士も、先端の物理学者も、同じような事を言い出した。


男の臓器は、ドックの前に書いた誓約書どおりに、
全て「国立人間ドックセンター」に提供された。

この時代では、臓器移植は 一般に広く普及しているが、
臓器が不足しているという話は、聞いた事が無いという。


→ 「人間ドック革命 ~課長の場合~」に続く

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