◎ 自作掌編小説「人間ドック革命 ~課長の場合~」


(作品No.018-B)

課長の奥さんは、人間ドック愛好家だ。
と いっても、自らが受ける訳ではない。
ドックを受けさせるのは もっぱら夫。
もちろん、生命保険は がっぽりと掛けている。

夫はもともと、 課長になれるような器ではなかった。
平社員の頃は、 家に帰るとすぐに大酒を呑み、
毎日、仕事の愚痴で しつこく絡んで来たので、
どうやって離婚を申し出ようかと、いつも考えていた。

ところが、酒を飲み過ぎて肝臓を悪くした夫が、
最新の人間ドックに入ってから、その生活は一変した。
ドックと同時進行で 肝臓の臓器移植を受けた夫は、
まるで別人のように、とても穏やかな性格になったのだ。

東洋医学では、「臓器が性格に影響を与える」と言われている。
夫のイライラは、肝臓を病んでいた事が原因だったのだろう。

夫は 会社でも 周りから慕われる存在になり、係長に昇進した。

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2度目の人間ドックは、夫がタバコの吸い過ぎで、
肺を悪くした時だった。
 この頃の夫は、いつも 小さな事で クヨクヨしていたが、
肺を交換したら、とても明るい性格になった。
社内での人望が ますます高くなったからこそ、
現在の課長にまで 昇りつめることが出来たのだ。

20XX年の社会では、貧富の差が 今よりも歴然としていた。
たとえば、奥さんが2階のオシャレな出窓を開けると
いつでも、となりのバラック小屋に住む男が
うらめしそうに 自分を見上げているのだった。
その顔は 垢で黒光りし、風向きによっては 異臭さえした。

『あんな生活は 私には無理。 夫には もっと出世してもらって、
もっともっと 稼いでもらわなくっちゃ!』
奥さんは3度目の人間ドックを 心待ちにしていた。

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いつの間にか 50代に入った夫が、
「この頃、オシッコのキレが・・」と、ぼやき始めた。
奥さんは、ここがチャンスとばかりに人間ドックを強く勧めた。
夫も同じ考えで、3度目のドック受診は すんなりと決まった。

そして ドック当日、廊下で待機していた奥さんは、
担当医から部屋に呼び出され、説明を受けた。
「残念ながら、旦那様の前立腺に悪い細胞が見つかりました。
それがペニスにまで転移しています。
でも大丈夫です。 男性器ごと交換すれば心配ありません。」

奥さんは、『これで、部長になれる!』と内心大喜びだったが、
そこは真面目そうな顔をして
「ぜひ、お願いします。事前の誓約書のとおり、
夫も私も 臓器の交換は承諾しております。」 と答えた。

「では、どれに交換しましょう? 奥さんが選んで下さい。」
担当は 少しバツが悪そうに、奥さんを 臓器保管室に案内した。
奥さんは、目をキラキラさせながら、
一番大きくて立派そうなモノを選んだ。

その10日後、待ち詫びていた夫が帰って来た。
また、夫の性格は 変わっているのだろう。
しかし、今回 最も楽しみなのは、交換されたモノだった。
夜のおつとめが、昼から始まった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あなた。 ・・とってもよかったわ。」
「奥さんも、とってもよかったゼ。」
「まあ、ジョークまで上手くなったのね。」
全ての面において、奥さんは大満足だった。

1つだけ気になったのは、
夫が娘のお風呂をのぞく時間が、極端に長くなった事だ。
今までは チラ見程度だったが、まるで 舐めるように見ている。
『まあ、しょうがない。 替えた部位が 部位だから・・
それに 男性ホルモンの高揚は 私の望むところだし・・。』
奥さんは、その意味を深く考えていなかった。

2週間ほどして、夫の給料日がやって来た。
いつもは給与明細などには、全く興味のない夫だが、
今回は預金通帳や、印鑑の管理などについて 尋ねてきた。

『今度の夫は、蓄財にも真剣に取り組んでくれるらしい。
本当に人間ドックさまさまや。』
と、嬉しさ一杯の奥さんが 金庫の鍵を開けると、
突然、後頭部に激しい痛みが走り 目の前が真っ暗になった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何時間ほど経ったのだろう?

奥さんが意識を取り戻したのは、
夫に両足を掴まれて 台所に引きずられている途中だった。
ぼーっとした頭で横を見ると、風呂場が見える。
そこでは、娘が 言葉に出来ない程の惨状で殺されていた。
「うっ・・。」
奥さんがビクッと体を硬くしたのが、夫に伝わった。

「おや、生きていたのか? 奥さん、俺の事覚えてるか?」
その表情と言葉遣いは紛れもなく、隣りのバラックの男だった。

数年前に、トラックに轢かれて死んだ と聞いている。
そういえば、身寄りのない人間の臓器は、人間ドックセンターが全て引き取るのだった。

よりによって、あんな男の臓器を選んでしまうなんて・・。
しかし、悔しい事に 声も出ないし、指の一本も動かない。

夫型の男は、奥さんの体をガスコンロの前に横たえると
食用油を満たした天ぷら鍋に火をつけたまま出ていった。
今からどこかでアリバイを作り、火災保険も手にするのだろう。

薄れゆく意識の中で、奥さんは自動消火装置付きのガスコンロにしなかったことを後悔した。
いや、もっと他に 後悔すべき事があったような・・。

息絶えた奥さんの目尻から涙がこぼれ落ちたが、
業火を消化するための役には立たなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[付録] 「五臓」と「五志」の関係の概略

肝臓-怒-意志が強い、怒りっぽい
心臓-喜-楽天的、はしゃぎすぎ
脾臓-思-思慮深い、過干渉
肺臓-悲-よく気が付く、泣き虫
腎臓-恐-着実、怖がり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この作品は、以下の 掌編小説の続編です。
 → 作品No.018-A 「人間ドック革命 ~部下の場合~」 へ


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コメント

郷さんは、優しいなぁ~  (=^・^=)

コメントありがとうございました。
誰もくれないので、少し寂しかったんですよ(笑)

確かに スタイルが出来つつありますね。
「社会風刺」たまに「スピリチュアル」を目指しても、
ついつい「下ネタ」が入ってしまう・・という。
イヤハヤ、なんとも・・(恥)

あっ!それから この「続編」の予定はございません。
ご了承ください。

2016.10.10  23:39     梨木みん之助 さん   URL

面白い!下ネタを絡めたブラックなお話は梨木さんの独壇場ですね!
"身体"を改造するたびに変化してゆく"性格"…。いったい何が"自分"を規定しているのか(身体?脳みそ?性格?それとも…アソコ?笑)、足元が揺らぐようなお話だと感じました。
この後も人間ドッグを受けた様々な人の話が続くのでしょうか…楽しみです。

2016.10.10  14:48     水島郷 さん   URL

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